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2019年12月19日

ハラスメント関連法「指針案」の問題点について


 2019年11月20日、ハラスメント関連法「指針案」が公表され、12月20日23:59までパブリックコメント募集が行われています。
 これに先立ち、「真のポジティブアクション法の実現を目指すネットワーク」(ポジネット)では、2019年10月21日に公表された「指針素案」の問題点を指摘する緊急声明を出しました(http://genderequalityposinet.web.fc2.com/20191022statement.html)。11月20日に公表された現在の「指針案」には、「指針素案」から前進した部分もあるものの、まだ多くの問題が残されたままです。そこで本日、私たちは、ハラスメント関連法「指針案」の問題点を以下のように改めて指摘し、「指針案」の修正や通達による周知、パンフレット等への明記等の具体的対応をとるよう、政府に求める次第です。

■指針素案の問題点

①附帯決議関連の問題
【労働者の主観への配慮】
 参院附帯決議九ー1には、「パワーハラスメントの判断に際しては、『平均的な労働者の感じ方』を基準としつつ、『労働者の主観』にも配慮すること」と書かれたが、指針案2―(6)「労働者の就業環境が害される」ことについての判断に際し、「平均的な労働者の感じ方」を「基準とすることが適当」とし、「労働者の主観」に言及していない。他方、2―(7)として、「個別の事案の判断に際しては、相談窓口の担当者等がこうした事項に十分留意し、相談を行った労働者(以下「労働者」という。)の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、相談者及び行為者の双方から丁寧に事実確認等を行うことも重要である」と書かれている。これは、「労働者の主観」への配慮とも読み取れる記述であるが、「行うことも重要である」という書きぶりは、義務付けではなく任意であるかのように読め、「必要」とされた局長答弁から明らかに後退している。指針案2(7)の第二段落末尾を「必要である」に修正するべきである。

【自社外の者に関するハラスメント】
 同附帯決議九は「自社の労働者が取引先、顧客等の第三者から受けたハラスメント及び自社の労働者が取引先、就職活動中の学生等に対して行ったハラスメントも雇用管理上の配慮が求められること」を明記することを求め、かつ、「フリーランス、就職活動中の学生、教育実習生等に対するハラスメントを防止するため、男女雇用機会均等法等に基づく指針等で必要な対策を講ずること」としている。そのためにはまず、これら自社とも取引先等の他の事業主とも雇用関係にない第三者に対し、自ら雇用する労働者が行うハラスメントについても、事業主は防止のため必要な対策を講じなくてはならないと指針に明記する必要があるが、指針案ではそうなっていない。
・セクシュアルハラスメントに関する均等法指針案2(4)では、上記のような第三者が自らの労働者に対しセクシュアルハラスメントを行う者となる場合は「性的な言動」に含まれると追記されたものの、自らの労働者が上記のような第三者に対しセクシュアルハラスメントを行う場合については「性的な言動」に含まれるとされておらず、附帯決議のように、フリーランス、就職活動中の学生、教育実習生等に対するセクシュアルハラスメントを防止するため必要な対策を講ずるような内容となっていない。
・パワーハラスメントに関する指針案においては、指針案3(1)事業主の責務に、自ら雇用する労働者が他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む)に対する言動に必要な注意を払うよう研修の実施その他の必要な配慮をするよう努めるべきことや、事業主自身も言動に必要な注意を払うよう努めるべきことが書かれているが、フリーランスに関する言及が全くなく、フリーランスに対し行う言動への注意喚起や注意を払うこと等については、事業主の責務の範囲外に置かれている。また、指針案3(2)労働者の責務でも、必要な注意を払い事業主の講ずる措置に協力するよう努めるべきなのは他の労働者に対する言動だけで、フリーランス、就職活動中の学生、教育実習生等に対する言動に必要な注意を払うことは全く労働者の責務とされていない。つまり、附帯決議のように、フリーランス、就職活動中の学生、教育実習生等に対するパワーハラスメントを防止するため必要な対策を講ずるような内容となっていない。
・その結果、パワーハラスメントに関する指針案においては、事業主が自ら雇用する労働者以外の者(フリーランス、就職活動中の学生、教育実習生、顧客等)に対するハラスメント防止措置として言動に注意を払うことや、これらの人々に対しパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化することさえ措置義務ではなく、「望ましい取組」とされるにとどまっている(指針6)。また、これらの人々からの相談窓口の設置やその存在の周知は、措置義務としてはおろか「望ましい取組」としてさえ明記されておらず、フリーランス、就職活動中の学生、教育実習生等に対する自ら雇用する労働者からのハラスメント被害を防止し被害者を救済するという観点が著しく乏しい。これでは、附帯決議が求める内容が指針案に反映されているとは到底言えない。フリーランス、就職活動中の学生、教育実習生等に対する自らが雇用する労働者からのハラスメントについても、①方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるハラスメントにかかわる事後の迅速かつ適切な対応、④プライバシー及び不利益取り扱いの禁止等について、事業主の配慮措置とするべきである。

【性的指向・性自認に関するハラスメント】
 カミングアウトしている当事者に対する性的指向・性自認に関するハラスメント(いわゆるSOGIハラ、ソジハラ)しか、雇用管理上の措置の対象にならない指針案となっている。

②国会答弁との矛盾の問題
【属性に関するハラスメントの記述の不十分さ】
 業務上必要のない外見・服装等の強制(女性のみ眼鏡の着用を禁止したりパンプス・ハイヒール着用を強制したりすることなど)が「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動にあたると明記することは、属性(この場合は性別)に関するハラスメントへの適切な理解のために重要である。これらがパワーハラスメントにあたる場合があることについては、すでに担当大臣をはじめとして政府側から複数回の国会答弁がなされており、これについて指針案に明記することが強く求められる。また、指針案に明記しない場合は、国会答弁の重みを踏まえ、通達で周知を行うことを優先的に検討すべきである。最低限、パンフレットにはこのことが明記されるべきであり、パンフレットのみの記載の場合は、厚生労働省や関連組織・団体によるハラスメント関連の研修会等においては、このことに関する適切な注意喚起がなされるよう、特段の配慮が行われるべきである。

(関連する政府側答弁)
・2019年6月5日衆議院厚生労働委員会、尾辻かな子議員の質問に対する根本匠厚生労働大臣(当時)の答弁
・2019年6月5日衆議院厚生労働委員会、尾辻かな子議員の質問に対する高階恵美子厚生労働副大臣(当時)の答弁
・2019年11月19日参議院厚生労働委員会、福島みずほ議員の質問に対する加藤勝信厚生労働大臣の答弁
・2019年11月22日衆議院厚生労働委員会、尾辻かな子議員の質問に対する藤沢勝博政府参考人の答弁
・2019年12月3日参院厚生労働委員会、福島みずほ議員の質問に対する藤沢勝博政府参考人の答弁

【「パワーハラスメント」の定義の狭さ】
 ハラスメント防止義務は、裁判例で不法行為責任が認められる範囲よりも、相当程度広範囲なものでなければならないのに、指針案は「パワーハラスメント」の定義における3つの要素について、極めて限定的に解釈している(pp.2-6)。また、根本厚生労働大臣(当時)は、女性労働者へのパンプス強制がパワハラかどうかは「当該指示が社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか」と述べているのに、指針案では「業務上明らかに必要性のない言動」と、「明らかに」という言葉が入ってハラスメントとされる範囲をさらに不当に狭めている。

③その他の問題
【事実確認後の雇用管理上の措置における本人の意向の確認と尊重が明記されていない】
 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の対応に関し、被害を受けた労働者に対する配慮のための措置や、行為者に対する措置を行うにあたっては、「相談者の意向を丁寧に聞き出す」「雇用管理上の措置を講ずるにあたっては、できる限り相談者の意向に沿うようにする」ことが必要であるが、指針からは全くそれが読み取れない。指針案4(3)のロ①とハ①に加筆し、それが読み取れるようにするべき。

【迎合的言動等、被害者の心理状態に関する確立した知見等が反映されていない】
 ハラスメントを受けた者はやむを得ず行為者に迎合するような言動をすることがあるが、これらの事実がハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないこと等を、厚労省の通達は明記している。このような心身の状況に関する基準は、確立した学術的知見をもとにしており、企業実務における判断においても、当然、反映されるべきだが、指針案にはそのような記載がない。

【属性に関するハラスメントの記述が不十分である】
 「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動の判断にあたって総合的に考慮するべき要素(指針案p.3(5))の中に「労働者の属性や状況」とあるが、当該行動を受けた労働者が特定の属性マイノリティにあてはまらずとも、特定の属性に関する「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動により、就業環境が悪化することは十分ありえるというのが属性に関するハラスメントの特徴なので、この部分を修正すべき。
 また、「精神的な攻撃」の該当例(指針案p.4ロ)のうち、「人格を否定するような発言をすること」に続く文章は、性的指向・性自認という属性に関するハラスメントをその一例として示したものだが、これが属性に関するハラスメントという、より広い概念に基づく例示であることを明記すべき。

【被害者の保護ならびに救済という視点が乏しい】
 パワーハラスメントに関する法整備が全く行われていない時代の、しかも裁判にまで至った、より深刻と思われる事例に基づき、「パワーハラスメント」概念が狭く定義されたことは、この指針案が、被害者の保護および救済という視点に乏しいという問題を抱えていることの反映である。ハラスメントの法整備にあたっては、社会的に弱い立場にある被害者の保護および救済という観点が、より重視されるべきである。ハラスメントによって傷つけられた労働者の支援策や職場に復帰するための具体的な手続きやルール等の整備も今後必要と考える。

以上。


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