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2019年10月21日

「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上
講ずべき措置等に関する指針の素案」に対する緊急声明


 現在、厚生労働省労働政策審議会雇用環境・均等分科会において、年内の取りまとめを目指し、ハラスメント法制に関する指針が審議されている。10月21日の審議会では、「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」(以下、「指針素案」)が提示された。多大なる関心を持って内容を検討したところ、この指針素案には極めて大きな問題があることが明らかとなった。そこで本日、緊急声明を公表し、問題点を指摘するとともに指針素案の修正を求めるものである。
 指針素案の問題点は、以下の二点に大別できる。

1.衆参両院がそれぞれ全会一致で決議した附帯決議において「指針の策定に当たり…次の事項を明記すること」とされている内容が、指針素案に十分に反映されていないこと
2.上記以外の問題

以下、それぞれについて詳しく述べる。なお、表記の煩雑さを避けるため、この声明においては、附帯決議の引用の際には参議院のものを用いる。本文中で示されているページ番号は、指針素案の当該箇所のページ番号である。また、指針素案の修正案の提示にあたっては、ある程度の長さのある文章を新規に追加する場合はその文章を太字体で示し、もとの文章の語句修正や短文追加などの細かいものについては修正した語句や追加した短文に下線を引いて示した。

1. 衆参両院において全会一致で決議された附帯決議が十分に反映されていないこと

 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が採決されるにあたっては、衆議院では17項目、参議院では21項目の附帯決議が全会一致で行われた。これに先立ち衆参両院の厚生労働委員会において附帯決議を付することが決定された際には、根本匠厚生労働大臣は「ただいま御決議になられました附帯決議につきましては、その趣旨を十分尊重いたしまして、努力してまいります」と述べている。したがって、附帯決議の内容は、指針策定の際に当然に重視されるべきものである。特に、参院附帯決議九(衆院附帯決議七)は「パワーハラスメント防止対策に係る指針の策定に当たり、包括的に行為類型を明記する等、職場におけるあらゆるハラスメントに対応できるよう検討するとともに、次の事項を明記すること」として3点(衆院は2点)を挙げている。「検討すること」「努めること」等を求める他の項目に増して、「事項を明記すること」というより強い国会の要請を示すこの項目は、指針策定の際にとりわけ尊重・反映されるべきものである。
 にもかかわらず、今回の指針素案は参院附帯決議九(衆院附帯決議七)の一部については全く反映しておらず、また、一部については不十分にしか反映していない。国民の代表である国会議員の全会一致の意思が示され、行政の責任者である厚生労働大臣が上記のような発言をしたという事実の重さに照らせば、現在の指針素案には非常に大きな問題があるとしか言いようがない。そこで以下では、この項目に関わる点に特化して問題点を指摘し、指針の修正を提案する。

1) 参院附帯決議九ー1 「労働者の主観」への配慮について

 参院附帯決議九ー1には、「パワーハラスメントの判断に際しては、『平均的な労働者の感じ方』を基準としつつ、『労働者の主観』にも配慮すること」と書かれている。しかし、指針素案においては、「労働者の主観」への配慮は全く明記されていない。したがって、附帯決議の内容を正しく反映するため、「就業環境を害すること」に関し述べている部分の指針の第二段落(指針素案p.3)は以下のように書かれるべきである。

「この判断に当たっては『平均的な労働者の感じ方』、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準としつつ、『労働者の主観』にも配慮すること。」

 加えて、指針が上記のように修正されるべき理由は、附帯決議だけではない。均等法通達(雇児発1011002号)の第三-1- (2)イ5「『性的な言動』及び『就業環境が害される』の判断基準」においても、「一定の客観性」に言及する際に「労働者の主観を重視しつつも」として、客観性のみに拠らない判断基準であることが明記されている。日本のハラスメント対策においては、セクシュアルハラスメントにかかわる議論が先行し、知見が蓄積され取組が進められてきた。そのような歴史的経緯をふまえれば、セクシュアルハラスメントに関し見出された「ハラスメントの判断基準において労働者の主観を重視すること」の必要性は、パワーハラスメントの判断においても当然配慮されるべきである。
 さらに、第198回通常国会でのパワーハラスメントに関する議論でも、上記通達を踏まえて、パワーハラスメントに関しても「労働者の主観」を考慮すべきだという指摘があり(2019年5月23日の参議院厚生労働委員会、福島みずほ議員の質問)、これに対して雇用環境・均等局長は「相談者から事実確認等を行う際に、相談者がどのように感じたか、あるいはどのような認識を持っていたかということを含めて丁寧に事実確認を行うことが必要であるというふうに考えております」と答弁している。つまり、事実確認等を行う際には「相談者がどのように感じたか、あるいはどのような認識を持っていたか」という「相談者の主観」に配慮する必要性を認めた答弁がなされたのである。
 以上のことを踏まえれば、「労働者の主観」への配慮が明記されていない指針素案は、立法側・行政側による国会での議論の積み重ねを無視したものであり、到底看過することはできない。

2) 参院附帯決議九−2 自社外の者が関わるハラスメントについて

 参院附帯決議九−2は、「2 自社の労働者が取引先、顧客等の第三者から受けたハラスメント及び自社の労働者が取引先、就職活動中の学生等に対して行ったハラスメントも雇用管理上の配慮が求められること」を明記すること、と書かれている。つまり、指針素案の「4 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容」(pp.6-11)や「5 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し行うことが望ましい取組の内容」(pp.11-12)が、これら自社外の者が関わる行為に関しても行われるよう、求めているのである。にもかかわらず、指針素案では、自社外の者が関わる行為に関して行うことが望ましい取組みの内容として、取組みの一部を列挙したにとどまり(pp.12-13)、限定的なものとなっている点が非常に問題である。
 その結果、例えば、就職活動中の学生・フリーランス等の社外の者に対するハラスメント防止措置として行うことが望ましい取組みの内容としては、ハラスメントを行ってはならない旨の方針等の明確化及びその周知・啓発の1項目に止まり(p.12)、予め相談窓口を設けることを含め、相談に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備や、ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応及び相談者・行為者等のプライバシー保護や不利益取扱いの禁止に関する措置についても、全く明記されていない。
 また、顧客等の第三者からのハラスメントについても、指針素案の7「顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容」(pp.12-13)では、雇用管理上の取組みについて言及しているが、その内容は非常に限定的である。顧客等の第三者からのハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応についての取組み(例えば、事実関係を迅速かつ正確に確認する、事実関係が確認できた場合には行為者である顧客等第三者に対する措置ーたとえば「出禁」などーを適正に行う、再発防止に向けた措置を講ずること等)や、相談者・行為者等のプライバシー保護や不利益取扱いの禁止に関する措置についての記載は全くない。
 したがって、附帯決議が、取引先・顧客等の第三者、就職活動中の学生等に関わるハラスメントにつき雇用管理上の配慮が求められることを指針に明記するよう要請しているにもかかわらず、指針素案の内容は、上述のようにその要請を適切に反映しておらず、問題がある。

3)参院附帯決議九−3 性的指向・性自認に関するハラスメントとアウティングについて

 参院附帯決議九−3は、「職場におけるあらゆる差別をなくすため、性的指向・性自認に関するハラスメント及び性的指向・性自認の望まぬ暴露であるいわゆるアウティングも雇用管理上の措置の対象になり得ること、そのためアウティングを念頭においたプライバシー保護を講ずること」を指針に明記するよう求めている。しかし、指針素案の2「職場におけるパワーハラスメントの内容」(pp.2-6)では、性的指向・性自認に関するハラスメント(いわゆるSOGIハラ、ソジハラ)と「アウティング」という属性に関する情報の望まぬ暴露が、パワーハラスメントとして雇用管理上の措置の対象になりえることが、箇条書き項目(〇がついた項目)として明記されていない。また、アウティングを念頭においたプライバシー保護についても、「個の侵害」に関する該当例・非該当例の列挙の際に言及されているのみである(pp.5-6)。しかもこの該当例・非該当例の最後は「こうした機微な個人情報に関してはその取扱いに充分注意をするよう労働者に周知・徹底することが重要である」(p.6)と、プライバシー保護の措置の重要性に言及するだけの文章となっており、プライバシー保護の措置を講ずることを求める附帯決議の内容とは明確に異なっている。これでは「アウティングを念頭においたプライバシー保護を講ずること」を指針に明記せよという、国会の強い要請を適切に反映した指針であるとは言えない。
 そこで、第一に、指針素案2の「職場におけるパワーハラスメントの内容」の、該当例・非該当例列挙の直前の部分(p.3)に、以下の文章を新たな箇条書き項目(〇がついた箇条書き項目)として挿入するべきである。

「〇性的指向・性自認等の属性に関するハラスメント及び性的指向・性自認等の属性の望まぬ暴露であるいわゆるアウティングはじめ、機微な個人情報の望まぬ暴露も雇用管理上の措置の対象になり得ること、そのためアウティングを念頭においたプライバシー保護を講ずること」

そして、第二に、「個の侵害」の該当例・非該当例の部分の最後の文章(p.6)を、以下のように修正するべきである。

「なお、個の侵害に該当すると考えられる例の2つ目のような事例が生じることのないよう、こうした機微な個人情報に関してはその取扱いに十分留意をするよう労働者に周知・啓発すること。」

2. 上記以外の問題

 指針への明記が要請されている参院附帯決議九以外の点についても、指針素案には看過できない重大な問題がある。具体的には、

1)「パワーハラスメント」の定義が狭く、就業環境を害する行為の発生を予防する範囲が狭くなることにより生じる問題
2)迎合的言動等、被害者の心理状態に関する確立した知見等が反映されていないという問題
3)属性に関するハラスメントの記述が不十分であるため、属性に関するハラスメントについての事業主の適切な理解を妨げる恐れがあるという問題
4)被害者の保護ならびに救済という視点が乏しいという問題

の4つである。以下、それぞれについて詳しく述べるとともに、1)〜3)については指針の具体的な修正提案を行う。

1)「パワーハラスメント」の定義が狭く、就業環境を害する行為の発生を予防する範囲が狭くなることにより生じる問題

 指針素案においては、「パワーハラスメント」の定義における3つの要素について、極めて限定的に解釈しているが(pp.1-6)、この点は非常に大きな問題である。その定義の確定においては、過去の裁判例で賠償責任の対象となる不法行為に該当するとされた行為を参照するなどしているが、裁判例で不法行為責任が認められる範囲であれば、そのような行為は禁止されるべきものであり、防止義務の範囲はそれより相当程度広範囲なものでなければならないはずである。なぜなら、仕事から生じる対人関係上のトラブルであるハラスメントを根絶して労働者が力を発揮できる環境を用意することは、事業の必要に基づいて労働者を配置・組織する企業の責任であり、本法が措置を講じるべきとする予防対象は(行為が不法行為と評価できるかどうかにかかわらず)、そうした観点から定められるべきものだからである。指針素案は、法の本旨であるところの「防止」措置に対応するものとは到底いえず、これでは健全な就業環境を保持することはできない。
 さらに、日本においては、業務上の必要性・合理性・相当性判断が相当広範囲に企業の裁量にゆだねられていることを前提に、裁量を超えて著しく違法であることを要求されるケースが少なくないが、指針案では、そうしたことへの配慮が皆無であるから、対策を講じるべきハラスメントの範囲及び対策が「企業目線」で決められ、働きづらさを訴える被害者の視点、被害の経験は無視されることになりかねない。そして、このような狭い定義では、いわゆる「ブラックな職場」で横行しているような、対象者を必ずしも限定せずに、絶えず怒鳴り続けたり、暴力的に物を扱ったり(蹴る、叩くほか)する行為が、防止すべき「パワーハラスメント」の範囲からこぼれ落ちる危険性もある。こうした言動にさらされてうつ等の精神障害を負い休職や退職につながるケースもあり、これが大きな社会問題となっている現状に鑑みれば、「精神的な攻撃」類型に、このような「環境型パワーハラスメント」のタイプの例示を加えるべきである。

2)迎合的言動等、被害者の心理状態に関する確立した知見等が反映されていないという問題

 指針素案においては、「4 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容」の(3)「イ 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること」の箇所において、「(事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認していると認められる例)」として、事実関係の確認に際し、「相談者の心身の状況にも適切に配慮すること」と記載しているが(p.9)、この場合の「心身の状況」の内容が、具体的でなく、事業主にわかりにくいものとなっている。
 しかし現在、セクシュアルハラスメントによる精神障害の労災認定については、厚労省の認定基準の通達(「心理的負荷による精神障害の認定基準について」基発1226第1号、2011年12月26日)の「第8その他」の「2 セクシュアルハラスメント事案の留意事項」において、ハラスメントを受けた者はやむを得ず行為者に迎合するような言動をすることがあるが、これらの事実がハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないこと等を明記している。このような心身の状況に関する基準は、確立した学術的知見をもとにしており、企業実務における判断においても、当然、反映されるべきであって、少なくとも被害者にこのような言動があったからといって、防止や対応のための措置から除外するなどのことがあってはならない。そこで、本指針においても、「その際、相談者の心身の状況にも適切に配慮すること」(p.9)に続けて、以下の文章を追加すべきである。

「例えば、事実関係の確認に当たっては、被害者の迎合的言動がハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないことに留意すること。」

 また、事実関係の確認や事後の措置等の事後対応においては、本人の意向や心身の状況に沿って進めることが必要である。本人の意向等を無視して、事業主が対応を強行した結果、本人の精神障害を発生させた事例もある。この点は、「4(3)職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」全般にわたって重要な観点であることから、同項の○の一文(p.8の下から6行目)に続けて、次の文章を追加すべきである。

「なお、その際、相談者の意向に沿い、また、心身の状況にも適切に配慮すること。」

3)属性に関するハラスメントの記述が不十分であるため、属性に関するハラスメントについての事業主の適切な理解を妨げる恐れがあるという問題

 参院附帯決議九の3は、「職場におけるあらゆる差別をなくす」という趣旨で置かれたと明記されているのであるから、この趣旨に鑑みて、属性(性別、性的指向・性自認、障害、年齢、人種・国籍等)に関するハラスメントも当然に雇用管理上の措置の対象になりうることを、指針素案2「職場におけるパワーハラスメントの内容」に明記するべきである。
 また、属性に関するハラスメントは多様な要素が関わることから、事業主の理解が十分でなければ、雇用管理上の措置を適切に行うことが難しい。したがって、その適切な理解を促し事業主の配慮の必要性を示すうえで、指針が果たす役割は非常に重要である。属性に関するハラスメントとその雇用管理上の措置に関する適切な理解を促すために、以下の箇所について、指針素案の修正を行うべきである。

・p.2
ー>「・業務上明らかに必要のない言動」に続けて「(外見・服装等の強制を含む)」と加える。なぜなら、特定の属性を理由とする外見・服装等の強制の問題には強い社会的関心が向けられており、業務上必要のない外見・服装等の強制に関して、これが「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動であると明記することは、属性に関するハラスメントへの適切な理解のために重要だからである。なお、「明らかに」の文言は、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」の要素の解釈を狭める例として適切でないと考えられるため、削除が必要である。

ー>「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動の判断にあたって総合的に考慮するべき要素の中に「労働者の属性や状況」とあるが、この部分は「労働者の」を削除し「属性、労働者の状況」と修正するべきである。なぜなら、当該行動を受けた労働者が特定の属性マイノリティにあてはまらずとも、特定の属性に関する「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動により、就業環境が悪化することは十分ありえるからである(例えば、同性愛者に対する侮辱的な発言が繰り返し職場で行われた場合、それを言われた者自身は異性愛者であっても、同性愛者への連帯の気持ちを抱いていたり家族に同性愛者がいたりするなどの理由により、そのような発言に苦痛を感じ、就業環境が害されることがありえる)。この部分の「労働者の」を削除しないままでは、属性に関するハラスメントについての事業主の理解を誤らせることが危惧される。パワーハラスメントの適切な理解を促すという、指針に求められる役割を果たすためにも、この部分の修正が必要である。

・p.4
ー>精神的な攻撃に該当すると考えられる例のうち、「人格を否定するような発言をすること」に続く丸括弧内は、性的指向・性自認という属性に関するハラスメントをその一例として示したものだが、これが属性に関するハラスメントという、より広い概念に基づく例示であることを明記するべきである。また、p.2の2番目の修正点で述べたのと同様の理由により、「相手の性的指向・性自認に関する」とある部分の「相手の」を削除する。つまり当該部分を「(例えば、性的指向・性自認等の属性に関する侮辱的な発言をすることを含む。)」と修正するべきである。

・p.5
ー>「個の侵害に該当すると考えられる例」としてあげられている機微な個人情報の暴露の部分は、性的指向・性自認以外の属性も含めて例示することが事業主の理解のためには重要である。「性的指向・性自認等の属性や、病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」と修正するべきである。同様に、「個の侵害に該当しないと考えられる例」として挙げられている機微な個人情報の人事労務部門の担当者への伝達・配慮の促しの部分も、「労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認等の属性や、病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。」と修正すべきである。

4)被害者の保護ならびに救済という視点が乏しいという問題

 本声明文の2.の1)ですでに述べたように、今回の素案では、「パワーハラスメント」定義の内容については、過去の裁判例で不法行為に該当するとされた行為が参照するなどされた。また、パワーハラスメントの類型ごとの該当例・非該当例は、『職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書』(2018)に挙げられているもののほとんどが引き継がれており、同報告書の例は裁判例が元になっていると書かれている。このように、パワーハラスメントに関する法整備が全く行われていない時代の、しかも裁判にまで至った、より深刻と思われる事例に基づき、「パワーハラスメント」概念が狭く定義されたことは、この指針素案が、被害者の保護および救済という視点に乏しいという問題を抱えていることの反映である。
 ハラスメントは、健全な就業環境を損ない円滑な業務遂行を妨げるだけでなく、被害者にとっては、仕事をやめざるをえなくなったり健康を害したりと、その人生を大きく変えてしまう可能性のある深刻な出来事である。ハラスメントの法整備にあたっては、社会的に弱い立場にある被害者の保護および救済という観点が、より重視されるべきであると考える。加えて、現行法では、ハラスメントによって傷つけられた労働者の支援策や職場に復帰するための具体的な手続きやルール等が未整備であることにも鑑みて、あるべき対策に一歩を踏み出すよう強く求めるものである。

以上。


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